« 第3号 | メイン | 第5号 »

第4号

ニュースレター第4号word

「子どもたちは夢を持ってほしい」

小林 登氏 東京大学名誉教授、国立小児病院名誉院長、
サイバー子ども学研究所チャイルド・リサーチ・ネット所長、
子どもの虹情報研修センターセンター長


子どもについて、新しい立場で取り組みたい
 私は小児科医ですけれど、親父は絵描き(日本画家)で、母親も絵を描いていました。私の弟は父の後を継ぎ、息子も絵は描きませんが芸術関係です。親戚にも芸術関係の人間が多かったのですね。ただ、戦争中に海軍の学校に行ったのがきっかけで、戦後医学部に入ることになりました。学生時代に内藤寿七郎先生(日本小児科医会名誉会長)にお会いし、その影響で小児科に進んだのです。
  

40年ほど小児科医として働き、定年後何をしようかと考えた時、医療のことは、やる人はたくさんいるから、むしろ新しい立場で子どもの心を育てる研究をやりたいと思いました。その1つが、インターネットによるサイバー子ども学研究所です。1992年、ノルウェー・ベルゲンでの子どもの問題に関する国際会議で、子どもの問題を広く考えるために、ノルウェーの国立子ども学研究センターを中心になって、医学者だけでなく、心理学者、社会学者など、世界の研究者をインターネットでつなごうということになり、育児・保育・教育のサイバー子ども学研究所Child Research Net(CRN)をつくったわけです。
 もう1つは「子どもの虹情報研修センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)」です。こちらは、急増する子どもの虐待に対応するため、児童相談所や養護施設などの職員を研修して、そのレベルを上げるために、厚生省が横浜市を介して福祉法人に依託した国立民営の施設です。同時に、この施設は、虐待に関する情報も集め、整理して、より良い対応をする役割も担っています。これも子どもの心に関係あります。

この2つが現在の私の主な仕事です。
科学する子どもの心を育てるために、
生きる喜び、遊ぶ喜び、学ぶ喜びいっぱいの生活を!
 子どもが将来、科学するようになるかどうかというのは、その子の持っている資質に関係すると思います。子どもの能力の半分は、お母さんとお父さんの遺伝子が決めています。残りの半分のうち、20%はお母さんのおなかの中にいる時の影響なので、あまりお母さんがタバコを吸っていたりするとまずいわけです。残りの20%は、生まれてからの育児や保育や教育。そして、後の10%は、わからない・・・・・・。
 子どもを科学に関心を持たせるには、自然に関心を持つこと、数学や物理を理解する高度な知性を持つことなどが大切なのでは、と思います。
 つまりそれは、まずは普通の子育てでいい――子どもの時は子どもらしい生活をして、走り回って、生きる喜び、遊ぶ喜び、学ぶ喜びいっぱいの生活をさせることです。伸び伸びと育てて、自然に触れる体験をして、自然に関心を持たせ、そして勉強が好きなようにすればいい。その子どもが中学校・高等学校ぐらいになった時に、自然科学に興味が向くようにするのです。
 私自身は、親父が絵描きだったから、自然が豊かな所に住みました。育った所は杉並で、当時善福寺川の水がきれいに流れる所でした。透明な水の中では、タナゴがいっぱい泳いでいましたし、棘魚という巣を作る魚もいました。その川縁には、葦切りという草も生え、行々子という鳥が飛んでいました。我が家から小学校へ行くために林の中を通って行く時見た、樹液が流れていると樹の幹にカブトムシが群がっている姿を今も思い出しますね。現在は、残念なことにまったく変わってしまいましたね。
夢を持って、楽しく学び、楽しく遊ぼう
 これからの時代――未来は、必ず良い時代になると、私は思います。実際はなかなか難しいかもしれないけれど、私はそのように子どもたちには、強く言いたい。
 また、いい時代になるように、子どもたちには夢を持ってもらいたい。その夢はどんな夢でもいい。ノーベル賞をもらえるような偉大な科学者になろうという夢でもいいし、アメリカの大リーグで活躍する野球の選手になるという夢でもいい。自分に合った大きな夢を持って、それをめざして、楽しく勉強し、楽しく遊び、毎日が生きがいのある日にしてもらいたいと思います。
 そして、勉強が好きな子に育てるには、誉めることです。学校の試験が60点のテストを持って帰って来た時でも、お母さんは「何よ、60点?」などと言ってはダメなんです。「あ〜、よくできたね。じゃ、この次は70点を取ろうね」というような会話で、子どもをやさしく勇気づける。そうすると、「60点が取れた!」「70点が取れた!」という喜びを体験できるじゃないですか。誉めて育てることが、僕は重要だと思いますね。
みんなで仲よく生きる、
21世紀は「心」の時代になるように・・・・・・
 未来において科学・技術が人の役に立つものであり続けるために大切なことは、やっぱり「心」だと思います。我々が使っている電力の3割か4割は、今、原子力発電に頼っています。原子力も人類に貢献しているわけですが、それを戦争では、人を殺すために使う。そういうことも人間の心が決めているのです。
 20世紀は科学技術の時代で、豊かな社会をつくりましたが、その影響でいろいろな問題が出てきました。例えば、お金がありさえすればいいとか、物を持ってさえいればいいという考え方の問題ばかりでなく、環境汚染・温暖化そして生活廃棄物から産業廃棄物の山の問題、また戦争やテロリズムなど、人間の様々な行動にも直接または間接に影響を与え、いろいろな問題が現れてきました。
 21世紀は「心」の時代、やはり人間の時代にしなければなりません。そのためには人間の心を大切にすることを学ばなければいけないと思うのです。
 みんなで仲よく生きる――共に生きる(共生)、みんなで考えて物を作る(共創)、自然との共生だけでなく異文化の人とも共に生きていく――そういうことを考える「心」を持たなければいけない。
 私がいろいろと子どもたちのために研究や実践活動を行っているのも、やはり心を育てたいと願っているからです。育児や、保育や、教育というのは、子どもの心を育てることが、やはり一番大きな目的なのではないかと思いますからね。(談)

財団法人ソニー教育財団HP(2002/11/15インタビュー)より


「楽しいお産」で少子化STOP!

近 田 和 久


私は以前、労働組合の仕事に携わっていたことがあります。
職場での労働環境の改善から、賃金要求、社会制度改革に至るまで、労働条件にかかわる様々な問題に取り組んでいました。
特に、国民全体に及ぶ重い課題である、年金問題、税金問題、医療費の問題等についても役員の間でいろいろと知恵を出し合い議論しました。
その中での共通の認識として、これらの諸問題の根底にあるのは少子高齢化であることが確認されています。支給を受ける高齢者がどんどん増えて、その財源を支える若者が減っていくという現象。「この狭い国土に見合った人口に収束している」という見方もありました。何世代もかけて徐々に収束しているのであれば何の問題もないのですが、今のこの現象は急すぎます。何とかしないと、近い将来、医療福祉制度自体が崩壊するとも言われています。
では、なぜ女性が子どもを産まなくなったのでしょう。このご時世に子どもを安心して世に送り出せないという社会不安や、子どもを育て上げるのにやたら金がかかるといった経済的な問題もあるでしょう。しかし、最大の理由は、女性の社会進出だと言えます。世の女性達はその持てる能力を発揮し、自己実現あるいは社会貢献というやりがいを見つけました。個人にとっても社会にとっても大変有益なことです。
しかし、女性が社会で能力を発揮しようという時に大きなハードルを越さなければなりませんでした。それは、結婚して家庭に入るか、仕事に生きるかを迫られるような状況。これまでの「男が金を稼いで女が家庭を守る」といった性差別的な社会の仕組み(ジェンダー)がこのハードルを作り上げてきた訳ですが、このハードルは今や存在自体がナンセンスです。
女性が働きながら子どもを産みやすくしなければなりません。そのために様々な施策が考え出されました。男女の別なく取得可能な育児休業制度、子どもの突発的な発熱などに対応できる家族看護休暇制度、例えば夫が子どもを保育園へ送り妻が迎えに行けるような時差出勤制度、休憩時間を子どもと過ごせるような勤務先における保育施設の充実、子どもの多い家庭への優遇税制や児童手当の拡充などなど。それら全てについて、少しずつではありますが、法律等により制度化されたり、社会的に取り入れる風潮が広がりつつあります。
しかし、最大の難関は、やはり「女性がいかにお産を楽しく経験することができるか」、つまり最終的には女性のメンタル面での課題をどうクリアしていくかにかかっているのではないかと私は考えます。
「陣痛が始まって病院へ行ったら、ベッドにつながれ、白い天井を見ながら一人陣痛に耐え、点滴を打たれて事務的にお産させられた」と不満を感じているお母さんが少なからずいるのではないでしょうか。
以前、同じ職場にいた女性職員もその一人でした。二人目を身ごもって憂鬱そうに嘆いていましたが、二人目は助産院で出産したらしく、「お産が楽しかった」と感想を漏らしていました。彼女は今や3児の母です。
お母さん方に「お産を楽しく感じさせる」ことこそ、少子化にブレーキをかける最大のキーポイントではないでしょうか。そしてこの「臨床助産の会」こそ、楽しいお産を社会に広げる技術伝道者集団ではないでしょうか。そんな団体を応援していきたいと思っている会員がいることを心の片隅に留めていただけたら幸いです。