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                  助産婦雑誌Vol.55No.7
助産婦雑誌  研究・調査・報告
あかね助産院開業記

                 奥田朱美あかね助産院院長(奈良県天理市)

はじめに

 私はミレニアムの2000年1月8日,あかね助産院を開業しました。開業への意思を決め
たのは平成10年4月のことでしたが,開業までには、さまざまな葛藤に見舞われない日
はあ
りませんでした。そこでこれから,助産院を始めようとされている皆様へ,少しでもお
役に立てればとの思いから「開業記」を文章にしてみました。

開業まで

 開業までの私は,病院に約10年勤務,その後地域に出て10年(市役所でお母さん教室
,同時に個人病院でラマーズ教室,自宅で母乳相談を行なっていました),この間自宅
分娩も10例程介助しました。
 地域での10年間は,お産を取り上げることも少なく,このまま開業するには,やや不
安がありました。そこで同じ県内の石塚助産院で勉強をさせてもらったところ,だんだ
んお産の感覚が戻ってきました。病院で10年勤めていたことが,十分生きたようでした

 助産院の立地場所は,人口密度の高いところが良いだろうと考え探しましたが,今住
んでいる所の付近が,やはり何かと便利ではと思いました。助産院などは,求めている
女性は探してでも来てくれるのではと期待しつつ,また土地の値段との関係で,自宅近
くに開業することにしました。1999年3月,場所が決定しました。今考えると,その選
択は良か
ったと思います。主婦業も両立させる身としては,家の近くでやはり正解でした。99年
4
月に設計に入り,9月には地鎮祭を行ないました。完成は12月27日でした。
 建築面で一番苦労したのは,建築基準と「奈良県住みよい福祉とまちづくり条例」に
添った建物を作ることでした。限られた狭い土地に広いトイレや広い廊下,階段などが
要求されましたので,


「奈良県臍帯血支援ボランティアの会」の方たちと先輩助産婦と
ともに。前列右から2人目が筆者


設計士さんを泣かしたものです。
 できあがった建物は1階10坪,2階10坪の小さな助産院です。ベッド数は2床。外壁の

には落ちついたピンクを選びました。隣が幼稚園なので,ピンクは好評です。反対側の
隣が自宅で,廊下を渡ると自宅台所となっていて,清潔区域と不潔区域を区別していま
す。 名前は「あかね助産院」としました。あかねは私のペンネームです。「あ」から
始まるのは,電話帳などで一番に載せてもらえるという利点もあります。

開業にあたって

 助産院がオープンしたことを皆さんに知ってもらうために,PRを兼ねてイベントを考
えました。以前から関心をもっていた臍帯血バンクでしたら助産婦の特色も出せると思
い,奈良県臍帯血支援ボランティアの会を立ちあげることにしました。会員は9名で,
全員母
乳相談に来られたお母さまやパソコン通信のお母さま方でした。活動内容はバザーを開
催して,収益金を臍帯血事務局に寄付すること,著名を集めて,健康対策課に訴えると
いうことなどでした。約50,000円の収益金があり,署名も2,400名集まりました。大
変なこ
とは大変でしたが,強力な宣伝にはなったようで,開業当日に毎日新聞の取材を受け記
事にしてもらったこと,署名についてもあらためて記事にしてもらえたことはラッキー
でした。
 一応の目標を達成したあとは,「奈良県臍帯血ボランティアの会」は子育てサークル
となり,現在,定期的に集まることになっています。

助産院紹介

 それでは,あかね助産院の紹介をさせていただきます。

○医療機器
 医療機器については,昔の助産院では超音波装置や分娩監視装置などを使いませんで
したが,異常を早期に発見できる文明の利器を使えるものなら,使うほうがより安全で
はと判断,設備しました。
 消毒についても,滅菌して感染が防げるのなら必要と考え,オートクレープを準備し
ました。ビリベッド,ミノルタ黄痘計,検査一般,非常時薬品類,ドプラー児心音測定
器,消毒剤,酸素ボンベを完備しました。設備はそれなりにそろえましたが,あくまで
ハートフルな助産院でありたいと願っています。


○建築時の注意点
 ホルムアルデヒドによるシックハウス症候群やカビによるアレルギーなどに苦しむ現
代人は多いものです.そこで,壁紙はビニールをやめて,割高ですが紙材を材料にした
物を使いました。壁は石膏ボードを使い室内にホルムアルデヒドが蔓延しないように材
料選びに心をくだき,シャワールームでは黒カビが生えやすいためカビによるアレルギ
ーを防ぎたいとの思いから,特別に窓を付けました.2階の床は少しでも音が響くのを
押さえるた
めにクッションフロアーとしました。建物全体も防音断熱溝造にしました。非常灯,非
常出口,消火器なども設備しました。


○入院室
 お母さんと赤ちゃんが過ごす部屋は,ゆっくりとくつろげるように和室をと思いまし
たが,和室では足元がほこりっぼくなりがちですので,衛生面を考え洋室スタイルにし
ました。ハウスダストは赤ちゃんのアレルギーの原因になります。
 ベッドの高さは,いすに座ったときの膝までの高さとし,特注で低めに作りました。
 家族入院ができるように夫婦のためにセミダブルベッドを用意,そして別に赤ちゃん
のベッドを用意しました。ふだんはセミダブルのベッドに赤ちゃんと添い寝をしてもら
います。赤ちゃんは添い寝するとよく寝てくれます。また,赤ちゃんが泣いても隣にい
れば,お母さんは余分な動作をしなくてもすぐにオッパイを吸わすことができます。赤
ちゃんが泣いて困る場合は一時お預かりもしています。


○入院室の設備
 以下のような設備を入院室に用意しました。

●電話は外線が使えると同時にインターホン内線を兼ねています。

●オーブントースターも用意しました。本来母乳には和食を用意する予定ですが,やむ
をえずパンを出す時のために,パンを焼けるようにしました。

●ポット。これはお茶の他,赤ちゃんのお尻拭きや,オッパイ拭きなどに使ってもらい
ます。

●助産院には売店がありませんので,産後に自由に飲めるよう,冷蔵庫には冷たいお茶
とジュースを備えています。

●テレビは,助産婦としては産後はあまり見て欲
 しくないと思いますが,現代の妊婦さんにはテ
 レビは必需品のようです。

●電話配線は,病室からEメールが出せるように
 モジュラーを配線しています。しかし,パソコ
 ン持参で入院される人はまだいません。

●流し台は,洗面台とどちらを入れるか考えた末,洗い物も洗面もできる流し台を入れ
ました。

●ドアの下には小さなガラスを埋め込みました。これは,私たちスタッフが,外から中
の明かりがついているかいないか見るためです。

●カーテン,ベッドカバー,ソファーカバー等は色と素材を統一して,ペンション風に
ロマンチックな雰囲気を演出しました。色はグリーン系で統一,日の疲れが取れるとの
ことで好評です。カーテンは遮光カーテンと遮光レースで二重の遮光にしました。

●床頭台については,病院らしくないものをと考えて木製のものを探しましたが,思う
ものが見つかりませんでした。結局は小さいけれども,便利が良く合理的に考えられた
ものを選びました。


○トイレ・シャワールーム
トイレはウォツシヤブルの洋式トイレです。トイレの戸には小さなガラス窓を目の高さ
につけました。トイレやシャワールームなど鍵がかかるところには,非常通報ブザーを
付けましたが,万が一の非常時に救援できるように,10円玉で外から簡単に開けられる
鍵を付けています。1階のトイレは車椅子も使えるようにしました。車椅子を使う人は
実際には
少ないと思いますが,陣痛時にはトイレにいつまでも座っていたいときがあります。そ
の時介助者が2人入れるように,時にはトイレでもお産しても良いように広くしました



○診察台兼分娩台
 診察台は分娩台も兼ねています。最低30センチ,最高65センチの高低ができるリモコ
ンギャツジベッドを入れました。セントラルストッパーで,止めるのも簡単です。幅は
83センチあります。
 あかね助産院には,母乳相談の方も子づれでたくさん来ますので,ケア中,30センチ
の高さにしておけば,1歳にならない子供でもウロウロしながらお母さんの顔が見られ
るの
で安心します。
 65センチの高さは,分娩時に介助者が腰を痛めない・介助しやすい高さといえます。
このベッドは軽く簡単に動かせるようにしました。それは,お母さん方が母乳相談で4
か月
までの赤ちゃんを連れて来たとき,横に寝かせた赤ちゃんが落ちないように,ベッドを
自由に動かして壁に付けたいと思ったからです。幅も83センチあれば処置しやすく,ま
たお母さんと赤ちやんが一緒に寝てもらっても赤ちゃんが落ちません。分娩台といえば
砕石位ですが,あの格好はどうも私の好みに合いません。そこで足を置く台は付けず,
握り棒はベッドの柵を利用することにしました。1階流し台はベビーバスを入れて沐洛
ができるよ
うに広くしました。


○1階の部屋の利用方法
1階には多目的に使える2つの部屋があります。2つの部屋は,フローリングとタイルカ

ペット敷きにしました。タイルカーペットの部屋では逆子体操をしたり,保健指導をし
たり,看護者の当直室と,いろいろな目的で使えます。ときには陣痛室・分娩室も兼ね
ます。


○分娩時の助産婦の体制
 分娩は必ず2人体制で臨みたいと考えています。徒歩5分の距離の看護婦さんと,車で
10分程の先輩助産婦さんに支えてもらっています。



あかね助産院の特徴

 診察は,すべて予約制をとっていますので,待たせることはほとんどありません。母
親教室は1対1のラマーズ法指導です。ビデオを見せて呼吸法を出産経過に合わせて練習
します。その時,以前どのようなお産をしたか,どのようなお産を希望しているかを聞
き,この方のお産はどうするのが良いかを摸索します。1対1のため,妊婦さんは思った
こと,考えたことを気兼ねなく話してくれます。そしてお互いコミュニケーションを十
分に取るようにしています。
 妊娠初期・中期・後期の病院診察は,できる限り妊婦に付き添い,嘱託医との関係を
良い状態にします。また大きな病院のため,迷わないように,事前に病院の受診のしか
たなどを書いたパンフレットを作成して妊婦さんに渡します。
 あかね助産院は家族入院可能,洗濯サービスあり,分娩予約は月3例までとし,一人

とりを大切にした助産院を目指しています。また,妊産婦さんが一人で子育てができる
自信がつくまで母乳相談を行ない,断乳まで援助します。
 また,インターネットによる妊娠相談,妊娠経過の相談,母乳相談,診察予約なども
行なっています。
 母乳相談については,当助産院以外や海外からも,質問が月100件前後あります。
アドレスは,URL http:〃www.maboroba.ne.jp/〜akane/akane/index.htmlで
す。
 他医療機関とはバーチャルホスピタルなどで情報交換をしています.そこでは全科の
相談を受け付けています。その中で助産婦の母乳相談として,私も相談を担当していま
す。アドレスは,URL http:〃www.mahoroba.ne.jp/vh/です。


おわりに

 今までに3例の分娩介助を無事終えることができました。1例目は胃が痛くなるほど,
神経がとがりました。2例目は臍帯巻絡があり,羊水混濁があり,ヒヤッとしました。3
例日は安産でした。
1,000人以上取り上げた経験のある私ですが,責任の重さを考えるとまだまだ未熟者と
,ヒシヒシと痛感させられます。また,それだけに喜びも2倍3倍となります。開業して
手放しで「すばらしい」とは言えませんが,夢が実現できたことは喜ばしくもあり,や
りがいもあります。理解ある家族と応援して下さった人たちの協力があればこそで,日
々感謝の気持でいっぱいです。
 訪れてくれた女性から,「いいお産ができた」,「次もお願いします」と言ってもら
えるように,誠心誠意お世話し,事故を起こさないように日々環境を整え,正しい判断
ができるように精神を安定させ,技術を磨き,一生勉強していきたいと思っています。

                             (おくだ・あけみ)